離婚届不受理申出の制度とは?申し出の方法や注意点を解説

離婚届不受理申出の制度とは?申し出の方法や注意点を解説
離婚の成立には、法律上、夫婦の離婚の意思および離婚届の提出意思が必要だと考えられています。
しかし、離婚届は形式的な不備がなければ役場に提出することができますので、夫婦の一方が勝手に離婚届を提出してしまい、他方が離婚について了承していないのに、戸籍上は形式的に離婚が成立してしまう、というケースが生じることがあります。

このような事態が生じることを事前に防ぐために、離婚届不受理申出という制度が設けられています。
この記事では、離婚届不受理申出の制度について、申し出の方法や注意点について弁護士が解説します。

離婚届不受理申出制度とは

婚姻、離婚、養子縁組、養子離縁および認知は、市区町村役場に対する届出によって身分関係変動の効力が生じます。
届出という簡便な手続によって、夫婦や親子という身分関係について効力が生じますので、本来的には、関係する当事者が話し合ったうえで提出されることが予定されています。

しかしながら、届出を受け付けた役場の窓口では、話し合ったかどうかなど実質的な部分について調査することなく、届出に形式的な問題がなければ受理をしますので、一方の当事者が合意なく勝手に届出を提出してしまうことがあります。
そこで、このような事態が生じることを防ぐために、上記の届出については、不受理申出の制度が設けられています(戸籍法第27条の2第3~5項)。
そのなかでも比較的多く利用されている「離婚届不受理申出」は、離婚の合意や届出の意思がないのに、配偶者の一方が勝手に離婚届を提出し、戸籍が離婚したものとして書き換えられるなどの問題を予防するための制度です。

夫婦が合意して離婚する協議離婚は、離婚届の提出によって成立して効力を生じます(民法第764条、第739条)。
しかしながら、離婚の成立には、当事者に離婚の意思や届出の意思が必要だと考えられており、そのような意思がなかったときには、離婚は無効と考えられています。

一度勝手に離婚届が提出されてしまうと、離婚を無効とするためには家庭裁判所で離婚無効の調停を申し立てる必要があり、その手続には時間と手間がかかります。
そこで、仮に離婚届が勝手に提出されても、その効果が生じないようにする離婚届不受理申出という制度が設けられたのです。

離婚届不受理申出の有効期限は、申出人が取下げをしない限り、無期限です。
離婚届不受理申出をしたあとであっても、離婚について話し合うことには何ら問題はありません。
夫婦で話し合った結果離婚に合意ができたら、離婚届不受理申出を取り下げたうえで、離婚届を提出することになります。

離婚届不受理申出をする理由

離婚届不受理申出は、勝手に離婚されてしまうのを防ぐ制度ですが、この制度を利用する理由の多くは、次の2つです。

(1)離婚条件など話し合って合意したタイミングで離婚するため

離婚届は、署名押印などの形式的な要件を満たしていれば、役場に受理され、戸籍上離婚が成立したものとして取り扱われます。
離婚の成立には、実際には、離婚意思や届出意思も必要となりますが、離婚届が役場に提出される段階で、役場の担当者が、受理する前にそれらの意思の存在について(その場にいない)当事者に確認することはありません。
したがって、離婚意思や届出意思がないのに、勝手に離婚届を提出されてしまうケースが存在します。
夫婦のなかには、離婚意思はなくても、何らかの理由であらかじめ必要事項を記載した離婚届を配偶者に交付している方もいます。
また、一度は離婚意思および届出意思があり離婚届を配偶者に交付したけれども、のちに「やはり離婚したくない」、「離婚条件の話合いが不十分だからしっかり合意ができるまでは離婚したくない」など、離婚意思および届出意思を失う方もいます。
このように、必要事項を記載した離婚届を配偶者に交付している場合には、自分の意思にかかわらず、配偶者に勝手に提出されてしまうおそれがあります。
このような事態を防ぐために、離婚届不受理申出を行います。
そうすることで、離婚や離婚条件についてしっかりと話し合い、合意ができたタイミングで離婚を成立させることができるのです。

(2)親権を勝手に取られないようにするため

親権とは、未成年の子を養育監護(一緒に住んで育児・教育をすること)し、その財産を管理したり法律行為の代理などをしたりする権利や義務のことをいいます。

父母が婚姻中の場合は、共同で親権を行使しますが(民法第818条3項本文)、離婚するといずれか一方を親権者と定める必要があります(民法第819条1項)。
離婚届には、未成年者について、どちらの親が親権者となるのか記載する欄があり、配偶者が勝手に記載して提出することで、話合いを経ていないのに子の親権を失ってしまうおそれがあります。

仮に離婚自体に合意している場合であっても、親権者については争いがあり合意できていないときには、勝手に親権者を指定された離婚届を提出されることを防ぐために、離婚届不受理申出を行うことがあります。
離婚届のうち、親権者指定の部分だけ届出意思がなく無効である場合であっても、当事者の話合いだけで親権者を変更することはできません。
家庭裁判所に対して、親権者変更の調停や審判を申立てる必要があり、家庭裁判所において親権者を自分と指定する調停が成立するか、または審判が確定した後に、役場に対して親権者変更届を提出することになります。

そもそも離婚届を勝手に作成し、提出するとどうなるのか

離婚届について配偶者の同意なく配偶者の署名欄に勝手に署名したり、勝手に提出したりする行為は、次のような犯罪が成立する可能性があります。
ただし、仮に勝手に離婚届を作成され、提出されたとしても、形式的に離婚は成立してしまいますので、離婚を無効とするためには、家庭裁判所に対して協議離婚無効確認の調停の申立てを行うなど、裁判上の手続をとる必要があります。
勝手に作成したり、提出したりした行為などについて有罪判決があると、検察官から市町村長に通知がなされますので(戸籍法第24条4項)、市町村長はその旨を当事者に通知して訂正するよう求めたり(同条1項本文)、法務局長の許可を得て職権で訂正したりすることができます(同条1項但し書き、同条2項)。

(1)有印私文書偽造罪

離婚届を提出するなど行使する目的で、離婚届の相手方の署名を勝手に書いたり、相手方の押印をしたりする行為は、有印(署名または印章があるという意味)の私文書である離婚届を偽造することになりますので、有印私文書偽造罪が成立する可能性があります。
有印私文書偽造罪の罰則は、3ヵ月以上5年以下の懲役となっています(刑法第159条1項)。

(2)偽造有印私文書行使罪

偽造した離婚届を役場に提出して行使すると、偽造有印私文書行使罪が成立する可能性があります。
偽造有印私文書行使罪の罰則は、3ヶ月以上5年以下の懲役となっています(刑法161条1項)。

(3)電磁的公正証書原本不実記録罪

国や地方自治体は、戸籍によって国民・住民の身分関係(出生、結婚、離婚、死亡など)を電磁的に(データで)管理・記録しています。

協議離婚は、役場の窓口で公務員に対して離婚届を提出することにより成立しますので、戸籍上は、提出された離婚届のとおりに、身分関係が変動し、記録されることになります。
したがって、虚偽の(偽造した)離婚届を提出することにより、公務員に事実と異なる身分関係を電磁的に記録させることになります。

このように、公務員に対して戸籍に関し虚偽の申立てをして、電磁的記録に事実と異なる記録をさせる行為については、電磁的公正証書原本不実記録罪が成立する可能性があります。
罰則は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金です(刑法第157条1項)。

離婚届不受理申出の方法

実際に、離婚届不受理申出を行う方法について説明します。

(1)離婚届不受理申出書を入手する

まずは申出書の書式を入手しましょう。
書式は、居住する自治体の役場で入手可能です。担当窓口で書式を受け取ることもできますし、自治体のHPからダウンロードできることもありますので、HPを確認しましょう。

(2)離婚届不受理申出書へ必要事項を記入する

次に、書式に従って、必要事項を記載します。
必要事項は次の通りです。
  • 申出人及び配偶者の氏名、生年月日、住所及び本籍
  • 申出人の署名押印
  • 申出人の連絡先

(3)離婚届不受理申出書を提出する

提出先は、申出人の本籍地の市区町村役場の窓口が望ましいですが、遠方に居住しているなど提出が難しい場合には、居住地など任意の市区町村役場での提出が可能です。

窓口名は、市区町村役場によって異なりますが、「住民課」、「戸籍課」などが担当していることが多いようです。
提出時には、本人確認(運転免許証やパスポートなど)が必要ですので忘れずに持参しましょう。
婚姻届や離婚届と同様に、休日・夜間でも受付可能です。ただし、不備があると後日連絡を受けたうえでの再提出が必要となりますので、なるべく平日の日中に提出するようにしましょう。

離婚届不受理申出取下げの方法

話し合って離婚の合意ができたなど、不受理申出が必要なくなったときには、取下げの手続を行います。
取下げ書の書式は役場で入手可能ですので、認印および本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)を準備して役場に行き、役場で取下げ書に記載して提出するとよいでしょう。

離婚届不受理申出に関して知っておきたいこと

離婚届不受理申出に関して、知っておきたいポイントを解説します。

(1)不受理申出書を提出したら相手に気付かれるのか

役場に離婚届不受理申出をしても、役場から相手方に対して、申し出があったことに関して通知されることはありません。
ただし、相手方が実際に離婚届を提出すると、離婚届不受理申出の効力により、役場は離婚届受理することができず(戸籍法第27条の2第4項)、返還することになりますので、その際に、離婚届不受理申出が提出されていると知ることになります。
なお、勝手に離婚届を提出されると、その事実が申出人に通知されることになっています(同法第27条の2第5項)。

(2)休日でも提出できるのか

結婚届や離婚届などと同様に、離婚届不受理申出は戸籍に関する届け出ですので、戸籍の窓口が閉まっている夜間休日であっても、所定の窓口で提出することができます。
具体的な時間や休日のスケジュールなどは各自治体で異なりますので、事前に確認するようにしましょう。
また、「すぐに離婚届が勝手に提出されてしまうかもしれない」というような場合には、平日の日中に提出することをおすすめします。
夜間窓口では申出書を「預かる」だけで、書式に不備があるかどうかまでは確認しません。
後日不備があったことがわかると、役場から修正して再提出するよう求められることがあり、その間に離婚届が提出されてしまうおそれがあるためです。

(3)本籍地以外で提出できるのか

本籍地の市区町村役場でなくても、居住地など任意の市区町村役場に提出することができます。

(4)離婚届を提出される前に申し出が間に合わなかった場合はどう対応すればよいのか

離婚届不受理申出を提出する前に、離婚届が提出されてしまうと、形式的には戸籍上離婚が成立します。

しかしながら、離婚意思および届出意思が存在しないわけですから、実質的には離婚は無効と考えられます。
そこで、このような協議離婚の無効を確認する手段としては、家庭裁判所に対して協議離婚無効確認の調停を申し立てたり、訴訟を提起したりする方法があります。

(4-1)協議離婚無効確認調停

協議離婚無効確認調停では、裁判所の関与のもと、婚姻無効を基礎づける事実である離婚意思や届出意思の不存在について、当事者双方の意見を聞いたり、資料の提出を促したり、職権で調査を行ったりします(家事事件手続法第277条1項本文)。
当事者が婚姻無効の原因に合意し、家庭裁判所の調査の結果も合意相当と確認されたときには、合意に相当する審判がなされます(同法第277条1項本文)。

一方で、相手が調停に出席しなかったり、当事者間に婚姻無効について争いがあったり、当事者が婚姻無効の原因に合意しても家庭裁判所が合意相当と判断しなかったりした場合には、調停は不成立となり、訴訟において解決を図ることになります。
合意に相当する審判が確定した場合には、確定した日を含めて1ヵ月以内に、戸籍訂正の申請をします(戸籍法第116条1項、第117条、第43条1項)。

(4-2)協議離婚無効確認訴訟

訴訟を提起する裁判所は、基本的に原告(離婚無効の確認を求める側)または被告(その配偶者)の住所地です(人事訴訟法第4条1項)。
訴訟の場では、通常の民事訴訟と同じように、原告被告双方が、それぞれ言い分について主張し、証拠を提出します。
必要であれば、当事者や証人尋問の手続もなされます。

ただし、「貸したお金を返してほしい」というような通常の民事訴訟とは異なり、協議離婚無効確認訴訟は身分関係が関わる人事訴訟ですので、手続の基礎となる法律(人事訴訟法)も通常の民事訴訟(民事訴訟法)とは異なります。
したがって、通常の民事訴訟とは異なる点が数多くあります。

たとえば、通常の民事訴訟では、被告が何ら書面も提出せず第1回期日に欠席すると、原告の主張について認めたものとして自白が擬制され、原告が勝訴しますが(民事訴訟法第159条1項本文、3項本文)、人事訴訟ではこのようなことはありません。
裁判所が、原告が提出した証拠について検討し、さらには職権で調査したうえで判断します(人事訴訟法第19条1項、20条)。
無効を確認する判決が確定した場合には、確定した日を含めて1ヵ月以内に、戸籍訂正の申請をします(戸籍法第116条1項、第117条、第43条1項)。

【まとめ】離婚届不受理申出は早めの対応が大事!お困りの方は弁護士に相談

離婚届が提出され、戸籍上形式的に離婚が成立してしまうと、その離婚の効力を否定するためには、調停や訴訟手続きを経る必要がありますので、時間および労力がかかります。
したがって、配偶者に勝手に離婚届を提出されてしまうおそれがある場合には、できるだけ速やかに離婚届不受理申出を提出しておくようにしましょう。

離婚条件の話合いがうまくいかなかったり、配偶者との話合い自体ストレスだったりするような場合には、弁護士がご本人に代わって配偶者と話合うこともできます。

離婚でお悩みの方は、離婚問題を積極的に取り扱っているアディーレ法律事務所にご相談ください。

浮気・不倫の慰謝料に関するご相談は何度でも無料!

この記事の監修弁護士

慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。

林 頼信の顔写真
  • 本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。

こんな記事も読まれています

FREE 電話でお問合せ 朝9時~夜10時 土日祝日も受付中Webでお問合せ 24時間受付中