婚姻期間中の生活費等は婚姻費用として夫婦の収入に応じて分担しなければなりません。
ですが、具体的に双方どの程度を負担するのかハッキリしないままでは、必要な請求もままなりません。
このような心配を解消する手段として「婚姻費用合意書」を作成するのも一つの手段です。
特に別居が続くような場合には、婚姻費用の分担について「婚姻費用合意書」を交わしておくとよいかも知れません。
ここでは、
- 婚姻費用合意書に記載する内容
- 婚姻費用の計算方法
について弁護士が説明します。
婚姻費用とは?
婚姻費用とは、夫婦の婚姻期間中に、夫婦と未成熟の子(一般的には社会的・経済的に自立していない20歳以下の子ども)がその収入・財産・社会的地位などの事情に応じた通常の社会生活のために必要な生活費のことです。
具体的には衣食住に関する費用、未成熟の子の生活費、医療費などが含まれます。
同居か別居かにかかわらず、婚姻期間中の生活に必要となる費用は婚姻費用として夫婦の収入に応じて分担しなければなりません(民法第752条、同第760条)。
婚姻費用について、結婚当初からお互いの分担分を決めるしっかりした夫婦もいますが、多くの場合婚姻費用が問題となるのは、夫婦仲がよくない状態になり離婚を考え始めたり別居し始めたりしたときです。
別居している場合であっても、婚姻費用の分担を求めることができます。
ただし、別居に至った原因が主に権利者(婚姻費用分担請求者)にある場合、権利者自身の分の婚姻費用分担請求は信義則に反し、または権利濫用として許されず、権利者が現に監護している未成熟子の養育費相当分に限って請求することができるとされる場合があります。
詳しくは、婚姻費用分担請求をご覧ください。
婚姻費用合意書はいつ必要になる?
婚姻費用合意書はいつ作成してもよいのですが、実際に必要になるのは「合意書に従った内容の金銭を請求する可能性が出てくるとき」といえます。
つまり、夫婦間が不仲になるなど「口約束が守られない」可能性が高まったときです。
たとえば、離婚を検討し始めたころに冷却期間をおくために一時的に別居したり、配偶者の不貞行為の反省を促すために別居したりすることがあります。
離婚を前提とした別居の場合などは、物理的距離が離れることもあり、同居しているときに比べて夫婦のコミュニケーションが取りづらくなります。
このようにコミュニケーションが難しい状況では、別居期間中の婚姻費用に関する取決めは口頭約束だけでは守られないことも多くなってくるのです。
このような場合には、婚姻費用合意書を作成しておくほうがよいでしょう。
なお、別居に関する取決めをまとめた「別居合意書」やその他の事情も含め「夫婦間合意契約書」として作成する場合もあります。
婚姻費用の計算方法と婚姻費用合意書に記載する内容は?
婚姻費用の計算方法と、合意書で取り決めておいたほうがよい事項について解説します。
(1)婚姻費用の計算方法
婚姻費用は通常は、夫婦間の話合いによって決めるものです。
ですが、根拠のない請求では支払う側もなかなか納得しないかも知れません。
そこで計算の目安として、裁判所が公表している算定表がありますので、これを参考にしてみて下さい。
参考:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について|裁判所 – Courts in Japan
また、婚姻費用かんたん自動計算ツールでは、「婚姻費用」をいくら受け取れるかという目安を簡単にチェックすることができます。
あくまでも目安ですので、実際の請求額とは異なる可能性がありますが、婚姻費用合意書の作成前に試算してみるのもよいでしょう。
(2)婚姻費用合意書に記載したほうがよい事項
夫婦間の協議で婚姻費用が決まったら、次のことを合意書に記載しておきましょう。
- 婚姻費用の月々の支払い金額
- 婚姻費用の支払い期間 ※婚姻費用を請求したときから、「離婚するまで」あるいは「別居を解消して再び同居するまで」とするのが一般的です。
- 婚姻費用の支払い方法について
合意の内容は原則自由ですので、公序良俗に反しない限りほかのことを記載しても構いません。
子どもがいる場合は、子どもの監護養育や面会についても記載しておくとよいでしょう。
婚姻費用には子供の養育のために必要な費用も含まれますから、その内訳についても明示しておくと、子どもの養育のための費用が増えた場合に増額請求しやすくなるなどのメリットがあります。
婚姻費用合意書は公正証書にしておくべき
婚姻費用合意書は、単なる書面を交わすという形式で作成することもできますが、取決めを守ってもらえる可能性を高めるためには、公正証書にしておいたほうがよいでしょう。
公正証書は、法務省に属する機関である公証役場で、公証人により作成される公文書のことです。
公正証書を作成することにより、お金を支払う約束が守られる可能性を高められるというメリットがあります。
また、公正証書は、公文書として証明力・証拠力を備えた証書となるため、裁判になったときには「こういう約束をした」という証拠として用いることができます。
さらに、公正証書に「金銭債務を履行しないときは、ただちに強制執行に服する旨陳述した」といった文言(強制執行認諾文言)が付されていれば、婚姻費用の支払いが滞ったとき、裁判をしなくても強制執行をして財産の差押え手続などをすることができます。
ほかにも、内容が無効になりづらい、紛失を防げるといったメリットがあるのです。
なお、この公正証書を作るためには、申込み時に公正証書を作成することに合意があり、その契約条件もすべて合意ができていることが前提です。
あいまいな状態のまま公証役場に行っても作成できない結果に終わってしまいます。
【まとめ】婚姻費用合意書は、公正証書にしておくと安心
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 同居か別居かにかかわらず、婚姻期間中の生活に必要となる費用は婚姻費用として夫婦の収入に応じて分担する義務を負う
- 婚姻費用合意書は、夫婦間が不仲になり別居や離婚を意識したときに必要となる
- 婚姻費用の負担額を決めるときは、裁判所が公表している算定表などを参考にするとよい
- 婚姻費用合意書は公正証書にしておくとよい 強制執行認諾文言付公正証書にしておくと、支払いが一定期間滞ったときに裁判をしなくても強制執行をして財産の差押え手続などをすることができる
今回の記事では、婚姻費用についてご説明しました。婚姻費用はあくまでも婚姻期間中の生活に必要となる費用のことですが、夫婦関係が不仲な期間や別居期間を経て、離婚を検討される方も少なからずいらっしゃいます。
夫婦関係が不仲な期間や別居期間を経て、離婚を決意した場合には、離婚問題を取り扱うアディーレ法律事務所へのご相談を検討ください。
※なお、具体的な事情によってはご相談を承れない場合もございます。
どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。